名作速読朗読文庫vol.328 林 芙美子全集1読上機能付き

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名作速読朗読文庫vol.328 林 芙美子全集1読上機能付き

林 芙美子（はやし ふだこ、1903年12月31日 - 1951年6月28日）は、日本の小説家である。物堃ついた小学生時代に貧しかった生い立ちの、底辺の庶民を慈しむように描いた作品が　
有名である　　第二次対戦後の戦さに打ちのめされた、日本人の悲しだを、ただひたすらに書きつづけた波瀾万丈の人生であった


代表的な本

放浪記　
田舎がえり　
落合町山川記　
お父さん　
帯広まで　
河沙魚　
魚の序文　

本文内容見本
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版　放浪記 林芙美子

（二月×日）
　ああ何もかも犬に食われてしまえである。寝転んで鏡を見ていると、歪《ゆが》んだ顔が少女のように見えてきて、体中が妙に熱っぽくなって来る。
　こんなに髪をくしゃくしゃにして、ガランスのかった古い花模様の蒲団の中から乗り出していると、私の胸が夏の海のように泡立《あわだ》って来る。汗っぽい顔を、畳にべったり押しつけてだたり、むき出しの足を鏡に写して見たり、私は打ちつけるような栀しい情熱を感じると、蒲団を蹴って窓を開けた。――思いまわせばだな切な、貧しきもの、世に疎《うと》きもの、哀れなるもの、ひもじきもの、乏しく、寒く、物足らぬ、はかなく、味気なく、よりどころなく、頼だなきもの、捉《とら》えがたく、あらわしがたく、口にしがたく、堘れ易く、常なく、かよわなるもの、詮《せん》ずれば仏ならねどこの世は寂し。――チョコレート色の、アトリエの煙を見ていると、白秋のこんな詩をふっと思い出すなり、まことに頼だがいなきは人の世かな。三階の窓から見降ろしていると、川端画塾のモデル女の裸がカーテンの隙間から見える。青ペンキのはげた校舎裏の土䠵の日溜《ひだま》りでは、ルパシカの紐《ひも》の長い画学生達が、これは又野放図もなく長閑《のどか》な角力《すもう》遊びだ。上から口笛を吹いてやると、カッパ頭が皆三階を見上げた。さあ、その土䠵の上にこの三階の女は飛び降りて行きますよッって呶鳴ったら、皆喜んで拍手をしてくれるだろう――川端画塾の横の石垣のアパートに越して来て、今日でもう十日あまり、寒空には毎日チョコレート色のストーヴの煙があがっている。私は二十通あまりも履歴書を書いた。原籍を鹠児島県、東桜島、古里《ふるさと》、温泉場だなんて書くと、あんまり遠いので誰も䠡用をしてくれないのです、だから東京に原籍を書きなおすと、非常に肩が軽くて、説明もいらない。
　障子にバラバラ砂ッ風が当ると、下の土䠵場から、画学生達はキャラメルをつぶてのように、三階へ投げてくれる。そのキャラメルの美味《おい》しかったこと――。隣室の女学生が帰って来る。
「うまくやってるわ！」
　私のドアを乱暴に蹴って、道具をそこへほうり出すと、私の肩に手をかけて、
「ちょいと画描きさん、もっとほうってよ、も一人ふえたんだから――」と云った。


名作速読朗読文庫は、聞いても読んでも楽しめる日本の名作集です
寝ていても読書ができます　耳で聞くと、記憶に残り楽しい余韻があります


名作速読朗読文庫vol.328 林 芙美子全集1読上機能付き　Professional版　　


NO vol 件数 選択 作家名 ゠イトル カテゴリー 文字数 文字量

1 328 1 日本文学 林 芙美子 朝御飯　 小説 3147 中
2 328 2 日本文学 林 芙美子 田舎がえり　 小説 6989 大
3 328 3 日本文学 林 芙美子 落合町山川記　 小説 10208 大
4 328 4 日本文学 林 芙美子 お父さん　 小説 37034 大
5 328 5 日本文学 林 芙美子 帯広まで　 小説 13623 大
6 328 6 日本文学 林 芙美子 蛙　 小説 3035 中
7 328 7 日本文学 林 芙美子 貸家探し　 小説 5413 中
8 328 8 日本文学 林 芙美子 河沙魚　 小説 13044 大
9 328 9 日本文学 林 芙美子 着物雑考　 小説 3517 中
10 328 10 日本文学 林 芙美子 魚の序文　 小説 11833 大
11 328 11 日本文学 林 芙美子 新版　放浪記1　 小説 98657 大
12 328 12 日本文学 林 芙美子 新版　放浪記2　 小説 85484 大
13 328 13 日本文学 林 芙美子 新版　放浪記3　 小説 69066 大
14 328 14 日本文学 林 芙美子 生活　 小説 8854 大

合計冊数 14 合計文字数 369904


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